シャーロキアンのホームズⅠ– category –

1900年のロンドン。
霧に濡れた石畳の夜、プロポーズの余韻に酔った男は、一夜の過ちで全てを失った。
女は泣き叫び、男を責めた。
婚約者は氷の眼差しを残して去り、
噂は容赦なく彼を追い詰めた。
周囲の目に耐えきれなくなり、
男は三年間海外をさまよった。
だが帰国すれば、かつての恋人は親友の妻となり、幼い子を抱いて微笑んでいた。

怒りを親友にぶつけようとしたとき、男は気づいた。
自分が「犯罪者」だと決めつけられていることを。
警察は彼を信じず、親友一家に近づくことすら許されず、
彼は完全に孤立した。

もう自分を失うまい。
感情を殺し、論理だけを信じた。
完璧な観察眼と推理力を手に入れることにした。
名探偵の生みの親、アーサー・コナン・ドイルがまだ生きているこの時代。
シャーロック・ホームズの愛好家たちは、街角で鹿撃ち帽をかぶり、パイプをくわえ、
まるで本物のホームズのように振る舞って遊んでいた。
男は虚構を演じる者たちの中へ飛び込んだ。
やがて虚構が現実の穴を埋め尽くし、
現実が壊れすぎて、虚構しか残らなくなった。
名前を捨てた。
過去を捨てた。
感情を捨てた。
残ったのは、ただ一つの姿だけ。
霧のロンドンに、再び一人の名探偵が生まれた。
ただし彼が追うのは、事件ではない。
決して癒えない、過去の真実だけ。

コナン・ドイルがまだ生きているこの時代に、
誰かが、本物のシャーロック・ホームズになってしまった。
虚構と現実が絡み合い、
ひとりの人間がフィクションに取って代わる、
暗く、甘く、恐ろしい物語。
これは、始まりである。