やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第四幕では、
孤独に耐えかねてーー
僕はシャーロキアンの集会に行った。
そこでシャーロキアンのホームズに、
推理を披露された。
この推理のおかげで、
僕は彼らにとって
無職の本好きと決められた。
人間、自分よりも環境が厳しい相手には
優しくなるものだ。
僕は吃りながらーー
自己紹介をした。
「ぼ、僕はーー」
ここで僕の名前なんて、
ーー必要ない。
なぜかって?
もしも20世紀の初めの頃、
君が僕の名前を
イギリスで探そうなんて気が
起きないようにーー名前なんて、
そうそう語るべきではない。
僕は彼らにーー
シャーロキアンに受け入れられた。
事実はーーそれだけでいいーー。
僕は彼らと話を合わせるために、
本を読んだ。
特に繰り返し学ぼうとしたのは、
観察と演算推理法の二つだ。
そしてスコットランドヤードの
奴らへの嘲笑の仕方。
だけど何度読んでも、
ホームズは僕に対して
ニヤニヤした笑いを向けてきた。
その度に不安になった。
『彼はどこから来たのだろうーー』とね。
ーー読むだけじゃモノ足りなくなった。
知性は磨かなきゃならない。
使わなければ錆びる。
頭の中にあったとしても、
知性は道具と同じだった。
そこは並木道だった。
イチョウの葉が黄色いまま
地面に積もっていた。
その日、シャーロキアンの
僕たちには目的があった。
僕らの推理力を
コナン・ドイルに
見てもらうことにした。
それとちょっとしたお願い事を
聞いてもらうこと。
僕らは彼のファンだし、
彼も僕らの実力を知りたいだろうから。
ーーそれぐらい
ーー別にいいだろ。
ドイルがその道を歩いている。
イチョウ木々の隙間から、
僕は急に出ていった。
「やあ、ミスターコナン・ドイル」と
僕はニヤリと笑った。
彼の前で、正々堂々にね。
「僕は君の作品のファンだ。
第一作目からのね、ふふふ、
シャーロキアンとも呼ばれている・・・・・・」と
自己紹介をした。
個人としてではなく、
シャーロキアンとしてだ。
ーードイルの目に
一瞬だけ怯えの影が通り過ぎた。
夕方のイチョウの並木通り。
黄色い葉が、
ひらりひらひらと、
地面に落ちた。
「シャーロシアン?
そうか、ファンなんだね。
君ーー、きみ、誰だい?」
ドイルは額に油汗を
浮かべながら微笑んだ。
僕はジロジロとドイルを
上から下まで見つめながら言った。
ドイルを無遠慮に観察してた。
「シャーロキアン」と僕は訂正させた。
見ることに飽きた、
僕は口を再び開いた。
実力を見せてやる。
「ミスターコナン。
最近のあなたの執筆スピードは、
初期の頃とくらべてノロマになっている。
これはあなたが、
執筆活動よりも
友人たちとの対話
または遊戯に興味があるからだ。
あなたの肩に背負っているリュック。
おそらく個人のスポーツではない。
ちいさなリュックにはグローブがある。
ボクシングだ。
そして、あなたは気分良く歩いていた。
勝ったんだーー」
ドイルの頬がひくついた。
僕の早口言葉は
彼の嫌いなものだった。
「なぜ、スポーツをしたかというと、
あなたは、
いや、君は太ってきたからだ。
シャーロック・ホームズの生みの親が
ブタでは
示しがつかないからね。」
ドイルは口をあんぐりとあけた。
ヒゲが落ちそうな感じだ。
勝利を確信した。
僕はドイルのワガママボディの胸を
わしづかみにした。
そうさ、ニヤニヤしながらね。
なるべく自信があるように
振る舞ったつもりだ。
ーーだけど彼の反応は冷たかった。
「すまないが、
そんな風にされると困る。
手をはなしたまえーー
ミスター・・・・・・?」
「僕はホームズだ。
シャーロック・ホームズだ」
声を無理にだそうとした。
「わかった、ホームズ。
胸から手を離してくれ。
ーー気持ちが悪い」と
ドイルはハッキリ言った。
主導権は、彼にあった。
僕は、彼から手をどかした。
ーー悔しかった。
「君は太っているーー。」と
僕は悔しそうに言った。
負けたくない。
ドイルの頬がビクッと引きつった。
「お前は何がしたいんだ?」と荒っぽく、
ドイルは僕に聞いた。
「君が、君の執筆活動が
ノロマだから・・・・・・
僕は様子を見にきた。
大丈夫かなって・・・・・・」
「心配無用!本は書く!
お前は待て!
不愉快だ!どきたまえ!」と
ドイルは顔を真っ赤にして、
そのまま並木道を進んだ。
彼は何度か後ろを振り返った。
僕は、そんな彼の後ろ姿を眺めていた。
こうして、物語は一旦幕を閉じる。
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