やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第二幕では、
かつての友が、
恋人と結婚してた。
運命とは容赦ない。
あんまりひどいもんだから、
友に文句を言うため、追いかけた。
夜の都の石畳、
後ろをつけていったんだ。
かつての友のブザマな歩き方。
空では月がかげってた。
星々たちもどことなく、
囁くことにつかれてた。
ガス灯ならぶ街道で、
通りすぎる者はなし。
こんな不思議な夜だから、
まるでトロールが出てきそう。
追跡かーーまるで『緋色の研究』だ。
僕は静かに自嘲した。
イヤらしい探偵だ。
文句を言うため追いかけてーー。
なんだか悲しくなってきた。
世界中の誰よりも
イヤらしい男に思えた。
誰かが僕に指さして、
女にひどい乱暴し、
ムリヤリ関係したんだと言われたら、
自分でさえも納得した。
いつの間にやらーー
友のとなりに
やけにガタイのいい男がいた。
その体躯は後ろ姿でも、
どこかの部族の戦士を思わせた。
紳士服をまとっちゃいたが、
ムリに人の社会に
入り込んだようだった。
白鯨を追いかけた船員の一人に
似ているかもしれない。
ーーあの愛すべき人喰い人種に。
だけど男には、
一切の愛を感じない。
歩くと言うよりも、
押しのけていると言うのが合ってた。
彼らは顔を合わさずに、
何かを話していたけれど、
僕は探偵じゃないから、
彼らがどんな関係なのかわからない。
もしかして、
恋人同士なのかもしれない。
ーーわからない。
突然に彼らは
路地裏に飛び込むようにーー
吸い込まれた。
僕は思わず走ってしまい、
彼らを見失わないように
手足を振った。
彼らが向かった路地裏に
かけ出したまではよかった。
そこは暗い闇の道。
光の一つもありはしない。
表とは違う裏の道。
僕が近づくことがない黄泉の道。
彼らはここで消えたんだ。
渇く喉の警告を無視して、
僕は歩み出す。
びっこがムリにでも、
前に進まなきゃならぬように。
暗い道を手探りに、
前に歩いていくうちに、
やがて目が慣れて、
うごめく何かが見えてくる。
クスリか何かで横たわり、
ぶつぶつと呟く浮浪者を
踏みつけずに歩いてた。
誰かが急に手を伸ばしたら、
僕は悲鳴をあげただろう。
友はなんで、
こんな道を選んだのだろう?
文句を言わなきゃいけない事が増えた。
その時は、そう思った。
「許してくれ!」と叫ぶ男の声。
僕は目を見開く。
聞き耳を立て、早足で先へ進む。
迷宮みたいに分かれ道があったが、
男の悲鳴が蜘蛛の糸のように、
僕を案内してくれた。
そして僕は目にした。
かつての友人が大男に殴られるところーー
そう言いたいけど、
現実は違った。
彼はランタンを片手に闇で笑ってた。
白い光の中にいる蜘蛛のような笑顔を、忘れない。
本当に面白そうに、
彼は様子を見てたんだ。
大男が馬乗りになって、
無抵抗の男を殴りつけていた。
あの太すぎる腕でうちつけて、
いっぽう的なボクシングを
楽しんでるようだった。
こんなの紳士的ではなくて、
僕は大男の肩を掴んだ。
「ーーやめたまえ!
何があったか知らないが、
こんな事は神さまが許さない」
大男と友人の視線が僕に向けられた。
まるでこれから裸にして、
奴隷船にのせるような目だった。
僕は人ではなく、
彼らにとっては商品だった。
モノだった。
「ああ、やっぱり君だったーー
ふふふ、戻ってきたのかーー私の友よ」
こんな声をしてただろうか?
嘲笑のこもった声がした。
大男の方は、
まるでサメか何かのよう。
もしも友が、
僕を生きたまま食えと命令したら、
最終的には食う男だ。
淡い光にてらされて、
刈り上げた頭髪に太い頷が特徴だった。
「なぜ、こんな事を?」と僕は聞く。
言いたい事はあったけど、
ここは悪魔の住むところ。
霧の都の地獄の中だ。
神さまの目すら届かない。
「なぜと言いたいのは、私の方だ。
君がこんな酷いことを
ーーやるヤツとは思えなかった」と友は笑った。
より一層、蜘蛛はランタンの光の中で
顔を歪ませた。
乾いた笑いが響いてた。
僕は文句を言おうと決めて、
彼の肩に手を置いた。
だけど周りは騒がしくなっていた。
足音が近づいてきて、
スコットランドヤードの警察官たちが
黙ったまま近づいた。
「彼を逮捕したまえ!」
僕は大男を指さした。
「彼は人喰い人種だ!
紳士服の下には
異教徒の刺青が刻まれてる!」
すると大男は目を見開き、
大きな声で笑い出す。
とても大きな口だから、
僕は生きたままで食べられる。
殴られた男は震える指で、
僕に向かって、こういった。
「彼がーーわ、わたしをーーここでーー」
今度は僕が目を丸くした。
何が起こったかわからない。
彼は震えて繰り返した。
「この男だ、この男が殴った!
助けてくれーー」
僕は近くの警官に腕を捻りあげられ、
何か耳元でわめかれた。
何もかもが遠ざかった。
手首の痛さと無遠慮な殴打、
現実だって教えてた。
「あはは! 一発殴ればよかったな!」
そんな悪魔の声が聞こえていた。
僕はスコットランドヤードの犬たちに、
食いつかれていたんだ。
ーーあの犬どもめーー!
頭が飾りのマヌケどもーー!
こうして、第三幕は悪魔の声で幕を閉じる。
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