やあ、君。世の中、知らなきゃ良い事がたくさんある。
でも、知った方が良いこともあるんだ。この物語はーーどちらなんだろうね。
第四幕では、ホームズからの問いにガマンができなくなったワトソンは、デビルサーペントという巨大な蛇を村の目の前にだした。ファウストは、どう立ち向かうのだろうか。
ベーカー街の下宿の221Bの過ごしやすい居間。ホームズは、黙ったまま外を眺めていた。もう夕方になろうとしていた。依頼者は今日はない。
ワトソンはソファに座って、顔を下に向けて微動だにしなかった。
「村に、それほど大きな蛇が近寄ってたら、すぐに避難するだろう。
小さな村でも、見張りはいたはず。
ーー見張りは、彼だな。
ーーファウストだ。
ーー彼は満足に見張りもできなかった。
そうだね。」とホームズは静かにワトソンに聞いた。
「彼はーーほんのちょっと目を離してたんだーー」
ワトソンの声は小さくなった。
「大蛇はじわじわと、トグロを縮めていく。村の連中は悲鳴をあげた。
ファウストは蛇の顔めがけて魔法を連発した。彼は村の人たちから槍をかしてもらい、蛇に一人で立ち向かった。」
「馬車の再来だーー」とホームズは呟いた。
ワトソンは静かに言葉を続けた。
「彼は、蛇と戦いーーついに倒した。蛇は段々と小さくなっていき、美しい紅いベルベットドレスの女性に変わった。彼女は魔王軍の幹部だった。名をクララといい、蛇の悪魔だった。村を襲ったのは気まぐれだったーー」
ワトソンは一呼吸した後、口を開いた。
「ファウストは彼女を許し、村に連れ帰った。大蛇は逃げていき、美女を落として逃げたと言った。」
「それで、彼は彼女に何をした?」とホームズは静かに聞いた。
「彼はーー彼女を大胆に抱いたんだ。二人は結ばれ、かけがえのない主従関係ができたーー」
「ーーファウストはコミュニケーション不全だからだ。村の人間たちは、彼を相手にしない。だから、人間外と関係を結ぶしかなかった。そこでしか、孤独を埋められなかったからだ。
彼の精神はボロボロで、身体の要求に対抗できない。相手が女の形をしていたら、ケモノや悪魔だろうと関係がない。ーー女の形さえしてれば構わなくなっている。」
ワトソンは両手で顔を押さえた。
「ボクのせいなのかーー。こんな、こんな恥知らずをーーボクはーー」
ホームズは近くに置いてあったヴァイオリンをつかむと、ソッと自分のもとに引き寄せて、撫でた。
「まったくさ。とんだ、恥知らずの物語だ。英国紳士にあるまじきーー」
彼はヴァイオリンの音を確認してた。
「ーーだが、悪くなかったぜ。
ーー彼は君の物語の中の登場人物だ。
ーー架空だ。
ーー本当の命なんて、
持ち合わせてない。
それでも、僕らは彼のことを話した。
まるで本当にいるかのようにーーさ。」
優しい音色が部屋中に広がった。
「ねえ、ファウスト。
ーー僕らはここにいる。君の友だ。
またいつでも来いよーー」
窓の外から太陽の光が途絶えた。
こうして、物語は一旦幕を閉じる。
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